【千年狐】二次創作(会話文)『狐、長に問う事』
「長の一族として生まれたからには跡継ぎを作らなくてはならない───、制度というのは無遠慮で無慈悲ですねぇ。貴方のよう(傍点)に嫌がる方にまで婚姻、そして跡継ぎを強制する。自分とは無関係の民草のために、恐ろしくて堪らない、“他人と家族になること”を義務付けられる。」
「里人達は無関係な者ではありません!………………みな、大切な者達です」(一瞬は顔を上げるが、やはり項垂れる商荘)
「ああ、商荘さま……過言をお許し下さい。そうです。貴方はとても優しくて慈悲深い方………。」(商荘の手を取り跪く廣天。目線を商荘と合わせる)
「……………」(商荘、冷や汗をかいている)
「自分の里に住む子供、その家族、従者すべてを幸せに導かねばならない貴方は、代々受け継いだこの土地を貴方の才覚でさらに豊かにし、子には勉強を教え、貧しい者の葬儀や婚儀も手伝い、立派に人々の模範となった。」
「はい………しかしそれは、私の使命です。けして強制されたことではありません」
「なんて良い方なのでしょう………!」ブワッ😭
「いえ……」テレ
「でも本当は誰も愛していない……理解り合えないと思っている………違いますか。」
「この里の起源は数百年以上前、他国同士の戦に巻き込まれて滅んだ小さな国でしたね。仰る通り悲惨な話だ……自国の民を戦の巻き添えで喪うくらいならと、貴方のような優しい長が中立の立場を譲らなかった。」
「………でも、」
「そう。中立を保てる武力が無かった。攻め込まれて沢山の王族や民が死に、美しい王妃は攫われて陵辱されてしまった。おや、商荘さま……ダメですよ。まだ離しません。」(廣天、握ったままの手を離さない)
「攫われて子供を生ませられた王妃の末路……説明など必要ありませんね。貴方が怖がる話は止しましょう……。顔をお上げください。」
「………」
「貴方は考えました。このような恐ろしいことが起こるならもう戦争に巻き込まれたくない。自らが戦を起こすつもりはさらさらないので、巻き込まれないためにどうすればいいか考えた。」
「………そうです。だから私はこの里を豊かにした。財力があれば納める税も多くなり、国の中でそれなりの地位が出来る。財と地位があれば参戦しない代わりに差し出せるものが出来ますから。」
「そして国に自分の里について口出し出来ないようにも出来る、と………あの山は元々里の物でしょう。それを国に取り計らってもらうというのも可笑しい話です。」
「……私はその山の廟の墓守です。墓守の役目はあの廟の中の哀れな魂だけで充分………この里を戦禍から守りたいだけです」
「なんて健気でいじらしい方なのでしょう…………貴方の中には墓守にした原因の掠奪者の血も混じっているでしょうに。」
「………………………………………」
「これは私の詮無き想像ですが………。今よりもっと移動手段の無かった数百年の昔は、自国からあまり遠く離れた場所にまでは支配地を増やせなかった。攫われた王妃は……今、貴方が国と呼んでいるそこに攫われたのではないですか。」
「…………………………………………………」
「生ませた子供の血は王族として細々と受け継がれていきます。そして世継ぎの問題が無い女児が生まれ、その血と縁のある地であるこの里、代々豪商である貴方のお父様方に婚姻の話が持ち上がる。…………贈られてきたのはその生ませられた子供の血縁の女性なのではないですか。」
「母の………………この家の……………家系図を見ました………………。母や……祖母は………………家系を辿ると……………ああ、手を……手を離してくれ、廣天さま………」
「……そもそも結婚は社会制度です。家(他人)と家(他人)の繋がりを太くし、財と人脈を繋いでいく。由緒があればあるほど行動を縛る意味もある。家名という重みがあれば下手なことは出来ませんからね。」
「……毒のことですか……」
「………結果的に私は貴方の大変な秘密を暴いてしまった。…………申し訳ないことをしました。お詫び申し上げます。」
「あ、ああ……いえ……いえ……良いのです…………それより手を……」
「いいえ。まだ逃げられませんよ商荘さま。」
「………………何故……」
「貴方はこの手の中に収まるもの以外を理解したくない。」
「…………」
「貴方が理解出来ない、恐ろしくて理解したくないものを見たくない。」
「…………」
「この里で生まれ、学び、死ぬ人間しか貴方は必要としていない。」
「違う………」
「数百年の歴史のあるこの里……未だにほとんどが客戸なのは貴方の思惑ですね。里人の貧富に差が出るのを良しとしなかった貴方の。貴方は里人の家や家具、商いの道具や勉強道具、衣服も“物”は全て“貸し出し”の扱いにしている。」
「…………」
「里人からは不満が出ません。衣食住の全てを貴方が握っていても、何かと目に掛けてくれる優しい貴方に任せていれば、笊が綻びていればすぐに新しいものを……より良いものに買い替えてくれ、服も希望を言えば国へ行って買ってきてくれる。なんでも聞き入れてくれる商荘さま………自分達は商荘さまに仕えられるだけで幸せ。」
「……………私は里人達の幸せを……」
「私物を持てば誰かと比べてしまう。誰かと比べる欲というのは肥大化するもの……貴方の手の内にあれば全てを管理することが出来る。葬儀と婚儀を計らえば人の死も誕生も管理出来る。人の流れを把握できる。」
「………………………」
「よく………ここまでがんばりましたね。私がこの里に来てから見た里の人達は全て幸せそうでした。綺麗な服を着て、みな清潔。いつも笑顔で働き者。大きな不満はなく、小さな悩みも生きる喜びに比べればなんのその………。これは紛れもなく貴方の功労でしょう。この里で戦をしようと考える者は出ない。」
「あ、ありがとうございます………」
「でも貴方は彼らを裏切った。」
「………………………」
「ねえ……本当は誰も愛してませんものねえ……。」
「………………違………」
「まず……里の人達を知識を与えて学ばせた。頭が良い人は戦をしません……この世で最も愚かなことですからね。同時に、この里の主な収入源、細工物……この里に大きな畑はありませんでした。周りには痩せた土地、そして猛獣のいる山だけ……とすれば里の中で出来ること……細工物が特産品なのではないかと私は考えました……、その精度を上げもっと高値をつけられるようにした。高値がつけば職人達の自尊心も高くなり、高値で売れれば財で心に余裕も出来る。素晴らしい労働環境ですねぇ。誰も戦争をしよう等と思わない幸せな環境ですねぇ。」
「ええ……」
「貸し出しや福利厚生のぶん税は高いのでしょうが、生活水準が上がりそれに伴い幸福度も上がったので誰からも不満の声が出ない。貴方を尊敬する者ばかり……これで、戦を仕掛けるものはおりません。戦を持ちかけられた場合は貴方が仰った通り。」
「私が持ちうるものを差し出せばいい………」
「さて戦の面は解決しました。だけどこれはいつまで続けられるのでしょう?貴方という指導者を喪えば里はどうなるのでしょう?………ここで出てくるのは、後継者の問題ですねぇ、商荘さま?」
「そう……です」
「全く……首長者の一族に生まれるというのも難儀なこと……。ねえ商荘さま。貴方のように怖がりな方にも恐ろしい義務が生じる。里の歴史を紡いでいくために……“子を成せ”。」
「………………」
「国からの縁談を断りきれなくなった貴方はひとつの方法に出た……それが、貴方が妻と呼ぶことを許されない人間との結婚。……どうしても他人を入れたくない貴方の怖がりようと、里の者でも里で生まれ里の中で育ち、里から出ない如知さましか側におかない潔癖さからすると……姉君か妹君か、」
「双子……です」
「双子………。自分が知らない人間は怖いものです……そうか……、双子ならもっとも近い。魂の片割れ、元は貴方と一心同体。一番安心出来る相手だ。徹底されていますね」
「………なんとでも……」ハハ……
「しかし一番の問題は解決していません。便宜上、妻とした彼女とは実のごきょうだい。閨で何かをする気など微塵も起こらない。ただ日々は過ぎていく……」
「………あれはあれで楽しいものでしたよ。仕事ばかりで私には休む暇が無かった。彼女といるあの部屋では寛ぐことが出来た……何も心配しなくていい。国からの再三の縁談も、里の管理も。」
「そう。跡継ぎの問題さえ無ければ。」
「……………」
「過ぎらないはずがない。貴方という立派な顔役を喪えばこの里にまた恐ろしいことが起きるかもしれない。でも、奥様とは同衾出来ない。かと言って他の女性、それも国からの縁談を受けるつもりは無い。このままでは里は………」
「また滅びてしまう………所詮、墓守は墓守でしかないのでしょう」
「絶望した貴方は………」
「毒を飲んだ。現実から逃げるために。」
「…………………それを、裏切りというのです、貴方がやったすべての善いことを否定する………裏切りと。」
「…………………」
「誰も信用していない。愛していない。自分だけの力で維持出来ればそれでいい、次へ繋いでいこうと考えない。次世代を作らない………もっとも、この里は貴方のような怯えた子供が長になった時から、目に映る繁栄とは裏腹に緩やかな破滅ヘ向かっていっていたのでしょうが。」
「ひどい言い分ですね廣天さま、はは……」
「…………毒を飲むとき、何も浮かびませんでしたか。跡継ぎの重圧と国からの縛り付けだけでしたか。理解出来ない里の人のために身を粉にする人生から逃れたいだけでしたか。」
「…………」
「勉強を教えた子が官吏になったと報告してきた時の誇らしい顔は浮かびませんでしたか。世話した夫婦が子供を抱いて御礼を言いにきた幸せそうな顔は浮かびませんでしたか。そして……貴方を育てた、貴方が恐れる“どこか他所から来た”母君が、貴方に優しく微笑む顔も……浮かびませんでしたか。」
「………………」
「貴方が理解出来ないと思っていても、愛していなくても、成し遂げた功績は貴方へ返って来る。そもそも理解しようとなんてしなくていいのです。他人の気持ちや事情を考えなくていいのです。貴方はご自分の才覚だけでここまでこの里を栄えさせ、里の皆を幸せにした。とてもすごいことです。それは事実でしょう。」
「………」
「そして、貴方を自死に向かわせた最大の苦悩はそこにある。貴方は………攫われた王妃のことを心配する……とても優しく、慈悲深い子供だった。その心を保ったまま愛情深く育てられた。理解出来ない、怖いと思っている自分と、理解したい、分からないなりに期待に応えたいと思っている自分との板挟みになってしまった。………北斗星さまが仰っていたように………疲れたでしょう。お一人で大変な荷物を抱えてらした。」(廣天、握った手を撫でてやりやっと離してやる)
「あ、ああ……そんな……ことは……私の……」
「長としての使命、ですか。…………貴方に辛い選択をさせ、禁呪に手を出させようとする。」
「逃げられないのであれば、他の方法を取るしかない………」
「1人で子を成すか、不老不死。」
「信じてはいない、自然の摂理に反する術ですが、頼る他ありません……」
「そこで道術大会を企画し、私達や道士が来た。里の中の人間でさえ一部以外は信用していないのに、参加者のみなさま、さらに飛び入り参加の私達は特に恐ろしい異物に映ったことでしょう。そこで信頼の置ける如知さまを監視につけた。」
「分かってらしたんですね……」
「私達は精力的に動き回りました。如知さまから詳しく聞いてらっしゃるでしょう?闘って破れたみなさまの術のことを。」
「ええ……」
「では、あなたの望みに一番近い術を持っている方も分かったはず。」
「……………………」
「この計画に協力してくれたごきょうだいに迷惑がかからない、自分がかかればいいだけの禁呪。」
「…………………」
「商荘さま………………娟玉さまは、ここに居られるのではないですか?この扉の………先に。」ニッコリ
次回!娟玉奪還編!( ; ◉`ᾥ◉´)…ゴクリ
※ありません
もうすぐ後編がコミックウォーカーにて発表されるので(2021/12/21予定)楽しみです。